上峯2025「石器認定の思考」

上峯 篤史 2025「石器認定の思考 -日本列島における約4万年前を遡る石器の認識-」『史林』第108巻 第1号:7-42. 「嘘」と題する特集号に掲載された論考である。 「本稿では、旧石器考古学にかかわる捏造事件を、石器認定をキーワードに精査する。捏造者の作為の所在と「嘘」が受け入れられていく過程の読解から、「誤り」を促す思考の「穴」の輪郭をたどろう。そののち、「穴」の回避策を思案するなかで、石器認定をめぐる思考法と研究法の現段階、そして展望を論じる。」(9.)

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茨木1965「りゅうれぇんれんの物語」

茨木 のり子1965「りゅうりぇんれんの物語」『鎮魂歌』思潮社(2001復刊童話屋、2014『茨木のり子詩集』岩波文庫所収、初出は1961『ユリイカ』) 「劉連仁 中国のひと くやみごとがあって 知りあいの家に赴くところを 日本軍に攫われた  山東省の草泊(つあおぼ)という村で 昭和十九年 九月 或る朝のこと」 ある事情から『鎮魂歌』を読み直していて、改めて思った。 これは、文化財返還運動の一つの原点である、と。 「鍬を持たせたらこのあたり一番の百姓が 為すすべもなく攫われた  山東省の男どもは過酷に使っても持ちがいい  このあたり一帯が 「華人労務者移入方針」のための   日本軍の狩場であることなどはつゆ知らず」

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加藤2024『文化財の不正取引と抵触法』

加藤 紫帆 2024『文化財の不正取引と抵触法』信山社 最近、近くで働く友人にその存在を教えてもらった書籍である。 「本書は、筆者が、2018年3月、名古屋大学から博士(法学)号を授与された学位論文「国境を越えた文化財の不正取引に対する抵触法的対応:グローバル・ガバナンスのための抵触法を目指して」を基礎として、同大学の紀要に公表した拙稿をまとめ、軽微な加筆修正を行ったものである。 盗掘や盗難、略奪により国外に流出した文化財の回復という問題は、長らく国際社会の課題となってきた。文化財の由来する国家や元の所有者が、盗取ないし不法輸出された文化財を取戻す方法としては、当該文化財が所在する国家などの裁判所において、民事訴訟を通じた返還請求を行うという途が考えられる。

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