加藤2024『文化財の不正取引と抵触法』

加藤 紫帆 2024『文化財の不正取引と抵触法』信山社 最近、近くで働く友人にその存在を教えてもらった書籍である。 「本書は、筆者が、2018年3月、名古屋大学から博士(法学)号を授与された学位論文「国境を越えた文化財の不正取引に対する抵触法的対応:グローバル・ガバナンスのための抵触法を目指して」を基礎として、同大学の紀要に公表した拙稿をまとめ、軽微な加筆修正を行ったものである。 盗掘や盗難、略奪により国外に流出した文化財の回復という問題は、長らく国際社会の課題となってきた。文化財の由来する国家や元の所有者が、盗取ないし不法輸出された文化財を取戻す方法としては、当該文化財が所在する国家などの裁判所において、民事訴訟を通じた返還請求を行うという途が考えられる。

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谷川2025「近現代考古学をめぐる問題 」

谷川 章雄 2025「近現代考古学をめぐる問題 -東京の近現代遺跡から-」『文化遺産の世界』2025年4月7日 2月に行われた「東京都遺跡調査・研究発表会」での講演(谷川 章雄2025「考古学からみた江戸と多摩」『東京都遺跡調査・研究発表会50 発表要旨』14-15.)の一部がオンラインで活字化された。 「近現代考古学の調査・研究動向については、すでに櫻井準也や斎藤進によってまとめられている。その歩みを簡単に振り返ると、1970年代に産業考古学、1980年代に戦争遺跡考古学(戦跡考古学)の分野が注目され、1980年代中頃から盛んになってきた近世考古学の延長上に、近現代の遺構・遺物の調査・研究成果が徐々に蓄積されるようになった。その後1990年代中頃になり、近現代考古学の枠組みが提唱されるに至ったのである。」(はじめに) 私たちが近現代考古学の端緒を和島 誠一1953「歴史学と考古学」、同1954「考古学と歴史教育」に置いたのは、まさに「1990年代中頃」であった(五十嵐 彰・阪本 宏児1996「近現代考古学の現状と課題」『考古学研究』第43巻 第2号)。

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清泉女学院中学校2025年度入試問題

清泉女学院中学校 2025年度 アカデミックポテンシャル入試 神奈川県鎌倉市に所在するカトリック系の中学校である。モットーは「神のみ前に清く正しく愛深く」、著名な出身者として堂本暁子氏・田中優子氏などが挙げられている(ウィキによる)。 「(前略) 一方、保管、展示されているこうした文化財の中には、その収蔵されるに至った歴史的経緯から、もともと制作された場所、もしくは正当な持ち主のもとにあるべきだとの意見もあります。ロゼッタストーンやパルテノン神殿の彫刻(ギリシャ)、モアイ像(チリ)などは、本国が返還を望んでいます。これは「文化財返還運動」とも言われ、文化財を本来あるべき状態に回復する運動です。近年、欧米各国では返還請求により返還された文化財もあり、19世紀末にイギリスがアフリカで略奪した「ベニンブロンズ」と呼ばれる一連の工芸品(ナイジェリア)の返還は、その流れの一つです。また、2011年には日本から韓国へ「朝鮮王室儀軌」と呼ばれる書物が引き渡された例もあります。しかし正当な手続きのもと収蔵された文化財であるとして返還を拒むケースも見受けられます。文化財は誰のもので、どこに置かれるべきものでしょうか。」

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